公証人と公証役場
公証制度とは、国民の私的な法律紛争を未然に防ぎ、私的法律関係の明確化、安定化を図ることを目的として、証書の作成等の方法により一定の事項を公証人に証明させる制度です。
公証人は、国家公務員法上の公務員ではありませんが、公証人法の規定により、判事、検事、法務事務官などを長く務めた法律実務の経験豊かな者の中から法務大臣が任免し、国の公務をつかさどるものであり、実質的意義における公務員に当たる(刑法の文書偽造罪等や国家賠償法の規定にいう「公務員」に当たる)と解されています。 公証人は、取り扱った事件について守秘義務を負っているほか、法務大臣の監督を受けることとされ、職務上の義務に違反した場合には懲戒処分を受けることがあります。公証人は、法務省の地方支分部局である法務局又は地方法務局に所属し、法務大臣が指定する所属法務局の管轄区域内に公証役場を設置して事務を行います。公証役場とは、公証人が執務する事務所のことです。公証人は、全国に約500名おり、公証役場は約300箇所あります。公証人は、職務の執行につき、嘱託人又は請求をする者より、手数料、送達に要する料金、日当及び旅費を受けることとされており、その額は、公証人手数料令の定めるところによっています。公証人は、これ以外の報酬は、名目の如何を問わず、受け取ってはならないとされています。このように、公証人は国から給与や補助金など一切の金銭的給付を受けず、国が定めた手数料収入によって事務を運営しており、弁護士、司法書士、税理士などと同様に独立の事業者であることから手数料制の公務員とも言われています。 公証事務
公証人の取り扱う公証事務、言い換えると公証人が提供する法律サービスには、次のようなものがあります。
A.公正証書の作成
B.確定日付の付与 公証役場には、「確定日付印」が備え付けられています。私署証書(私人の署名又は記名押印のある文書)にこの確定日付印が押されますと、その私署証書が確定日付印の日付の日に存在したとの事実の証明になります。民法施行法では、証書に確定日付がなければ、その証書は、日付に関するかぎり、第三者に対して完全な証拠力を有しないと規定していますので、確定日付のもつ意味は極めて重要です。なお、確定日付については、民法第467条や民法施行法第4条以下を御参照願います。 C.認証 認証とは、一般に、ある行為又は文書が正当な手続・方式に従っていることを公の機関が証明することで、公証人が行う認証には、次のようなものがあります。
外国の公証人の歴史
その起源についてはローマ法に由来するとされ、中世の神聖ローマ帝国(ドイツ・イタリア)が始まりと言われています。12世紀とされるが詳細は不明です。当初は皇帝やローマ教皇の免許を要しましたが、後に自治都市内のギルドに資格授与権が下賜されるようになりました。当初は商業上の契約や帳簿など広範の私的文書作成を担当してきましたが、14世紀以後商人達の識字率向上や複式簿記の発達などに伴って専ら法的文書の作成に従事するようになります。公証人には当時一般的だった厳しい徒弟制度が存在せず、教養人にとって必須だったラテン語の知識が求められた事などから、自由を求めるルネサンス時代の都市教養人にとっては憧れの職業となりました。逆に言えば、ひとかどの教養のある人であれば、誰でも公証人の資格が取れました。その頃のピザやジェノヴァ、フィレンツェでは、人口200人に1人以上の割合で公証人がいたと言われています。ですが、同時に悪質な公証人が現れる危険性も増大したため、1512年に当時の皇帝が「帝国公証人法」を定めてその公的性格と公平中立の義務、国家による監督という基本原則が定められました。
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